しばらくして、市場の中にあるカフェでコーヒーを飲んでいると、先ほどの男性が僕を見つけ
買い物を終えたばかりの大きな袋を抱えながら隣に座りました。
「おいしいオリーブ買ってきたから一緒に食べよう」
オリーブを食べながら僕は、ここにいる経緯を話しました。
最初はDJやバーテンダーをやっていたこと、その後に働いたパン屋で6年ほど修行し、そこを辞めてこの次は何をやろうかと思いバックパックで旅してること。
男性は、僕の発した「パン屋」という言葉にピンときたのか、
「この近くで友達がパン屋をやっているんだ。紹介したいから今から行かないか?!」
と身を乗り出して誘ってくれたのです。
僕のこの後の予定は特になく、午後に乗る予約してあるTGVの時間までに戻れば大丈夫!と思い
「ぜひ!」
30分後に市場の前で待ち合わせしました。
すぐ近くと言っていたので10~20分位かと思っていたパン屋までの移動時間は、車でなんと片道90分…。(笑)
やっと着いたそこは、山の中腹にある峠のような場所で、フランス人の旦那さんと日本人の奥さんがやっているパン屋。
オーブンや酵母は全て自作。「セヴォン?」と言って少し舐めさせてくれた酵母は舌にピリッと刺激があって活発な感じ。
色々な話をしてそろそろ帰ろうかというとき、旦那さんがちょうど焼きあがったバゲットを手に取り
「このバゲットは、隣の農家さんが作った小麦で作ったんだよ」
その言葉を聞いた時、すごくワクワクしたことを覚えています。
そのパン屋からの帰り道、お友達らしきワイナリー、入り組んだ渓谷や絶景スポットを寄り道し、駅まで送ってもらうと予約してあったTGVはもう既にいるはずもなく…。
次のTGVを待つ間、旦那さんの言葉を頭の中で反芻していました。
隣の農家さんが作った小麦。
農家、パン屋、消費者。みんななんて近いんだろう。
僕も小麦を作ってみたい。そして、その小麦でパンを作って食べてもらいたい。
嫁の実家は専業農家、日本に帰ったらお義父さんに小麦を作りたいと話してみよう。
そんなことを考えながら帰路につきます。
2005年の秋のことです。