第3回:青い靴 観音崎

【MFC連載】三浦怪談・新編 第3回「青い靴」
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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。昨年の10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第3回「青い靴」
観音崎


「夜の遊園地には、入っちゃいけないよ」

母は繰り返し私にそう言った。

「夜の遊園地は亡くなった子が遊びに来るところなの。お客さんが帰って、静かになってからやっとその子たちの遊ぶ番になるのよ。邪魔したら可哀想でしょ」

母に言われて、私は誰もいない遊園地を貸切状態で遊ぶ少数の子供たちを想像した。私の心の中を見透かしたように、

「羨ましいなんて思っちゃダメよ。あの子たちの仲間になってもいいなら別だけどね」

母は何故か嘲笑うような突き放した言い方をした。
「仲間」と言われて、初めて自分の死を意識した。緩やかに「怖い」という気持ちが込み上げてきた。

夜の遊園地には、大人になっても足を踏み入れなかったが、夜の公園はどうだろう。かつてここは、恋人と一緒に訪れた場所だった。昼で、あたたかな日差しが照りつけていた。丘の上から見える海は光を反射してきらめいていた。今は日暮れに差しかかる時刻で、周りには人もなく、眼下に広がる海はどす黒く波打って見えた。

足元からひたひたと闇が迫ってくる。
それでも歩みを止められず、頂上にあるアスレチック場を目指して勾配のきつい坂を上り始めた。坂を下りてきた散歩帰りらしき老人がすれ違いざまに何か言いたげな顔をしたが、気付かぬふりをして山道を進む。

アスレチック場に辿り着くと、すっかり日が暮れていた。
丸太とタイヤとネットを組み合わせた遊具が私の前方にある。

「きい」

風もないのに鎖でつないだタイヤが揺れた。私は目を見張った。薄闇の中でタイヤの遊具が左右に揺れている。

滑り台のてっぺんに、月明りでぼんやりと影が浮かんだ。小さな影だった。漠然と嫌な予感がした。

たたたた……

軽快な足音がして、影だけが移動する。滑り台のてっぺんに上って、また地面に下り立ったような音がし、それからまた走っててんぺんに戻るのを繰り返す。

同じ動作が楽しいのか、影はずっと滑り台に上ったり下りたりを繰り返していた。

その場から動くことができず影を目で追っていた私は、影の形に違和感を感じた。

ー首がない?

くるりと、首のない影がこちらを向いたように見えた。なだらかで華奢な肩の線だった。

次に気付いた私は、全速力で山道を下っていた。ぎくしゃくしたおかしな足取りで、ひどく疲れていたが立ち止まるのも恐ろしい。

途中で人影を見つけ、飛び上がったが行きにすれ違った老人だとわかった。歩き疲れたらしく、切り株に腰かけて休んでいるようだ。もう日も落ちて、真っ暗だと言うのに……何故急いで下山しないのだろう?

私は、日没が迫っているのに公園を目指した自分の行動を棚に上げていた。

「なにか落としたよ」

すれ違いざまに老人に声をかけられた。振り向きたくはなかった。嫌なものがあるに決まっている。けれども、たたた……と音がして反射的に振り返った。

私の真後ろに、それほど汚れてはいない子供の靴が転がっていた。

 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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Kindle版「三浦怪談」はiPhoneやAndroidで無料配布されているKindleアプリやKindle端末で読むことができます。


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