第5回:相合傘 三戸海岸

【MFC連載】三浦怪談・新編 第5回「相合傘」
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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。昨年の10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第5回「相合傘」
三戸海岸


多喜は今年も、無事にオショロ流しを終えた。無数のご先祖さまたちをお見送りした。オショロさまや精霊馬やお墓のお供え物をたくさん船に乗せて、早朝の海に泳ぎ出した。夏の匂いの濃い海岸が遠ざかっていくのを、多喜は泳ぎながら波間から見つめた。

オショロ流しでセイトッコを務めるのは初めてではない。多喜は泳ぐことも得意だったし、地域の手伝いをすることも嫌いではない。大人たちに褒められると「やりがい」のようなものを全身で感じた。ところが今年は、いつもと少し違っていた。

船を見送った後で浜辺に戻ってきた多喜は、ぽつんと一人で砂浜に立っている女の子を見つけたのだ。奇妙な着物のような服装で、頭に赤いりぼんを結んだその子は、砂浜で一際浮いて見えた。人が群れている場所とは少し離れて、何も言わずに佇んでいる。多喜は一目見て、女の子から目が離せなくなったのだが、浜辺で待っていた大人たちも、セイトッコを務めている仲間の友達も、まったく女の子を気にしていないようなのだ。

──まさか見えないとか?

多喜がそう考えた時、女の子はすぐ近くまで歩み寄ってきていて、多喜と目を合わせるとにっこりと人懐こそうに笑った。
女の子は多喜の後をついてきた。大人たちに連れられて食事をご馳走になった席でも、隅っこに女の子はいた。

──あの子、お腹空かないのかな。

あまりに誰も女の子を構わないので、気の毒になった多喜はおにぎりと菓子を女の子にやろうとしたが、女の子は嬉しそうにしたものの、首を横に振って受け取らなかった。

その後も多喜は女の子をチラチラ気にしていたが、何も変化はないまま、会はお開きとなった。しかし女の子はついてきた。
帰り道に何度となく振り返ると、女の子が多喜と付かず離れずの距離を保ちながらついてくる。

「……家、こっちなの?」

多喜が尋ねると女の子は曖昧に頷く。「そうだ」とも「違う」とも取れた。

「もうすぐ俺、家に着いちゃうけど」

ややぶっきらぼうに言うと、女の子は了承した顔で頷いた。妙に大人びた表情をしていて、多喜は初めてどきりとした。それまで特に怖いと思わなかった女の子と自分とのあいだに、見えない一線が引かれた気がした。

そのまま多喜と女の子は、家までの帰り道を一緒に歩いた。知らない女の子(しかも皆には見えないらしい)と歩く道ゆきは奇妙なものだった。

──でも、悪いやつだって気はしないんだよなあ。

多喜はちらりと女の子を見た。おかっぱ頭に赤いりぼんに着物姿。いとこが小さいときの七五三みたいな格好をして、生真面目な表情をしている。

「どこかで会ったことあったっけ?」

ふと思いついて多喜は、自分よりかなり小さな女の子を覗き込む。すると女の子はまたちょっと嬉しそうな顔をした。

──「会ったことある」って意味なのかな。でも悪いけど……覚えてないや。

多喜の家に辿り着くほんの数歩前、女の子が急に立ち止まった。
「え」と言いかけた多喜の顔に、ぽつりと大きな雨粒が降りかかる。急な夕立だった。多喜は大げさに声を上げながら走って家に飛び込んだ。濡れた服を着換え、風呂に入ってふと我に帰り、夕立の止んだ往来に出てみた。すでに女の子の姿はなかった。
 
「お母さん、これなあに?」

多喜はふいに母親に尋ねたことを思い出した。多喜の指さした先には、木でできた三角形の棒があった。落書きの、相合傘のような形をしたそれは、木を組み合わせて三角の形に紐で縛られ、地面に突き刺ささっていた。

「ああ」と母は平板な声で答えた。
「新盆のお宅のしるしよ。夜にはここに提灯を吊るすのよ」

──この家では今年亡くなった人がいたのか。

多喜は納得したが、一瞬の後にそれを忘れた。
女の子の赤いりぼんが多喜の目の前で揺れて、すぐに消えた。
けれどもその家で近く亡くなったのは、米寿を過ぎたおばあさんだったと言う。

 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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