第6回:七曲りの女 三崎口駅から下宮田にかけて

【MFC連載】三浦怪談・新編 第6回「七曲りの女」
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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。昨年の10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第6回「七曲りの女」
三崎口駅から下宮田にかけて


※※※
その坂には、全部で七つの曲がり角がある。
現在駅がある頂上部からスタートして、車で通過するのはあっという間だが、徒歩ではふもとまで下りるのになかなか骨が折れる。七回の蛇行をくり返すうち、気付けば見知らぬ人が後部座席に乗っていたりする……。タクシー運転手の知人は、何度となくバックミラーに写り込んだ女性を七曲りの終点で見たと言う話だ。
※※※

「ねえ、あんた」
 
骸骨と見まごうほど痩せた女が、四つ目の曲線の内側に立っていた。襤褸(ぼろ)布同然の着物をまとい、涼風が吹く季節になっても震えることもなく突っ立っていた。

昼夜、占いをして身を立てている女は、しばしば夜になると七曲りに現れる。
女は四つ目の曲がり角に佇むのを好んだ。
女の目には、漂っていくこの世ならぬものが映るのだ。

声をかけると、女の目の前を流れて行こうとした一かたまりの影が動きを止めた。女の役目は言わば、この世とあの世の交通整理のようなもの。曲がり角にたまる淀みの、流れをよくしている。女に言わせればあくまで「善意」なのだそうだが。

──あたしに言ってるの?

「そうだよ」

言葉をかけられて、霧のように朧気な影は、少しずつ輪郭を取り戻す。影はふわふわと漂いながら、上下に揺れている。女に声をかけられて、喜んでいるように見えた。

「ずいぶん幼い娘じゃないか」

女は腹の中で呟いて、眉を下げた。

──大きな、牛のような女の人に連れられてここまで来たんだけど、はぐれちゃったみたい。

霧状の影が身をよじると、あたりの空気そのものが揺らいだ。声の調子から若い女だとわかるが、顔の造作までは判然としない。きっと無邪気な性格だったのだろう。人を疑いもせず、誰からも愛された娘に違いない。

「そりゃあ鬼だ。はぐれて良かったね」

女の言葉に、影は無言のままふわふわと揺れた。

──ねえさんも、ずいぶん痩せてるのね。ひもじいの?

影に心配された女は、おかしそうに、くつくつと低く笑った。

「あたしは腹が空かないんでね。それより、あんたが髪に挿してるのは桔梗かい?」

女が尋ねると、影はぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねた。

──そうだよ。あたしの、子供にもらったんだ。あたしが好きなのを知っていて……。

女は頷き、「よく似合ってる」と微笑んだ。影はさらに嬉しそうに、左右に大きく揺れた。
女は目を眇めると、ゆったりと腕を持ち上げ、坂のふもとではなく横道を指さした。

「あっちがあんたの行く道だと思うよ」

ふわふわとした影が、女の指さした方に嬉しそうに進んでいく。
道の上に、濡れたような黒い染みが徐々に広がっていく。

女の目には髪に刺した桔梗の花が見えていた。
若くして子を産み、死んでいった娘のようだった。

女は染みが横道いっぱいに、奥へ奥へと広がるのを満足そうに見つめると、今にも破れそうな着物の前を合わせ直し、自らも覚束ない足取りでふもとに向かって歩き出した。

女の勘では、今夜はもう迷う影は現れないはずだ。
身なりのせいであまり客はつかないが、女の占いは恐ろしいほど当たる。人づてに噂が広まれば、女は放っておかれるはずはなかったが。女自身がこの世のものなのか、あの世のものなのか、それは私にも定かには言えない。

※※※
 ああ、またこのお客さんだ。ひどく痩せていて、こう言っては難だけど、若い女性に似合わぬ粗末な服装をしている。だいたい決まってこの時間、俯いて駅前から手を上げる。別にいいのだが、あまり愉快ではない。そして決まって言うんだ。こんな夜中に「○○海岸までお願いします」ってね……。
※※※

 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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