第7回:死んでいく家 長井ハイツ(現ソレイユの丘)

【MFC連載】三浦怪談・新編 第7回「死んでいく家」

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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。2013年10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第7回「死んでいく家」
長井ハイツ(現ソレイユの丘)


ハロウィーンなどというものは、日本ではまったく定着していなかった。
私がまだ子供の頃の話だ。

当時はハロウィーン、と聞いたところでその名前を覚えられるはずもない。
魔法の呪文のように聞き慣れない手触りの言葉だった。人見知りで、初めてのことには慎重な私が、どうしてそこへ付いて行こうと思ったかと言えば、
「一緒にくればお菓子がもらえるよ」
という祖母の言葉に心が動いたからに他ならない。
お菓子をもらえる祭があることに、単純に胸が踊った。

祖母に手を引かれながら、私はたびたび祖母の顔を見上げた。どこに連れて行かれるのか聞かされていなかったのだ。
私たちはしばらく無言で歩くと、間もなく「長井ハイツ」に足を踏み入れた。家からわずか数分の距離だったが、そこは完全な異国だった。

長浜海岸を越えて小高い丘に上ると、そこには米軍とその家族が暮らす住宅街が広がっていた。「長井ハイツ」と呼ばれるその区域は、赤い屋根のモダンな洋館が多く立ち並び、一つ一つの家が広い庭を備え、きれいに整備されていた。

私はその日初めて、ある一軒の庭から玄関先まで並べられたカボチャのランタンを見た。時刻は夕暮れで、ランタンの灯りは点々と続き、私を夢心地にした。祖母が商売で知り合ったあるアメリカ人のお宅に招かれたのだと後年聞いたのだが、私の話と祖母の話は微妙に噛み合わないのだ。

大人たちが談笑する間に私は、私と同じくらいの年齢のシェリーという少女と遊び、白と赤の縞模様の、気絶しそうに甘い飴をもらったのだが、祖母はその話を聞いても首を傾げるばかりだった。

シェリーは白いフリルのついたワンピースを着ていて、学校にいる友達とはまったく雰囲気が違った。当時はその言葉を知らなかったが、どこか浮世離れしていた。

「そんな小さな女の子がいたかねえ」

祖母はぽつりと言った。
しかし私は、言葉も通じないはずなのにひと時を一緒に過ごした、金髪の少女の青い目をよく覚えていた。
私が日本語で何か言うたびに、彼女は深い青い目でじっと見つめてきた。物言いたげな目だった。

帰りがけには「また来年もおいで」と言われたが、私がその家に呼ばれることは二度となかった。シェリーは、カーテンの陰に隠れて、祖母と帰っていく私をいつまでも見つめていた。

しかし長井ハイツは、私が大学生の頃に突然区域ごと取り壊されることとなる。
赤い屋根の洋館。芝生のある広い庭。あの区域は私の憧れだった。
最後の姿を覚えておきたくて、すべてが無くなってしまう前に私は散歩に出かけた。
そして目を疑った。

家たちが死んでいた。すでに数年前から住人のいなくなった洋館はどれも荒れ果て、立ち入りできないようにロープが張られていた。
カボチャのランタンが並べられた家を私は覚えていない。
けれども、歩いているうちに何となく一軒の家に惹かれて立ち止まった。
周囲の家の中で際立って荒廃が進み、ビリビリに引き裂かれたカーテンが下がっているのが見えた。
あのカーテンの花柄に見覚えはなかっただろうか?

私はロープに近づき、家の中を覗き込んだ。もちろん誰の姿も見えない。
物言いたげな青い目を私はいつどこで見たのだろう?
点々と連なった灯りが一瞬だけまぶたの裏にゆらめき、私は目眩のようなものを感じてその区域から立ち去った。

 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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