第10回「夕暮集会」初声町高円坊

【MFC連載】三浦怪談・新編 第10回「夕暮集会」初声町高円坊
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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。昨年の2013年10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第10回「夕暮集会」
初声町高円坊


中学校からの帰り道は、いつも足取りが重かった。
私は部活に所属していなかったので、一人だけ帰る時間が早かったのだ。学校に背を向けて歩いていると、背後から野球部なのだろう、バットにボールがぶつかる「きん」という金属音や、吹奏楽部のパート練習の音が聞こえてきて寂しさが増した。

帰り道の風景はどこまでも広がる畑と堆肥小屋、つねにシャッターが閉じられた消防団の分署くらいしかない。見慣れた風景のため注視することもなく、私はいつも俯いて歩いていた。

晴れた日は乾いた緑の匂いが、雨の日は濡れた土の匂いがした。それらの風景の一角に、土を耕した様子もなく、一年を通して更地のようになっている畑があった。地面には切り株がいくつも埋まっていた。

何気なくその更地を横目で見ると、ばさばさと羽音がして、大きな鷹が切り株の一つに舞い降りた。一羽の鷹の着地を目で追ったところで、更地全体の風景に驚いて思わず二度見した。すべての切り株に鷹が止まり、切り株以外の地面にも夥しい数の鷹が集まっていたのだ。

私はそれを見た途端に恐ろしくなり、一刻も早く家に帰ろうと走り出した。しかし走り出した直後には頭のすぐ上で羽音がし、日が暮れかけたコンクリートの地面に大きな翼を広げた影が迫っていた。

──襲われる?

咄嗟に地面にしゃがみ込むと、私の頭すれすれに数羽が低空飛行をしていく気配がした。なかなか途切れることのない列の最後に、ぶうんと低い音がして固くざらついた羽が私の頬に触れた。恐る恐る顔を上げると、鷹の群れは姿を消していた。

「助かった」

私は呆然とつぶやくと、その場に手をついてしばらく動けなくなった。

這々の体で家に帰り着いた私は、庭で掃き掃除をしていた祖母が「あっ」と声を上げるまで自分の異変に気付かなかった。祖母の手振りに従って頬に手をやると、べったりと血がついていたのだ。

「集会に行き合ったか。そのくらいで良かった」

祖母は多くを語らず、頬の傷を手当てしてもらいながら私も深くを尋ねなかった。何も明らかにしないほうがいい気がした。

それから卒業するまで、毎日同じ畑道を通ったが同じ光景は二度と目にしなかった。
大人になって時折散歩をするようになっても、一度も見ることはなかった。

頭を抱えてしゃがみ込み、コンクリートの地面を震えながら見つめていたあの日の私を思い出す。あの時地面に映っていた影は、鳥ではなかったような気がするのだ。

時が経てば経つほど、私の記憶は鮮明になっていく。
あれは翼の形ではなく──そう、見たこともないほど大きな人の手の形であったような──。

 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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三浦半島怪談集 三浦怪談
配信:App Store
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開発:onTheHammock
発売:2013年10月下旬

三浦怪談



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出版:onTheHammock
発売:2013/10/12

Kindle版「三浦怪談」はiPhoneやAndroidで無料配布されているKindleアプリやKindle端末で読むことができます。


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