第12回:「閉じられた町」三浦市諏訪町

【MFC連載】三浦怪談・新編 第12回「閉じられた町」三浦市諏訪町
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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。昨年の2013年10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第12回「閉じられた町」
三浦市諏訪町


木造建築の二階には窓があり、木製の手摺が付いていた。
見上げると、手摺に何かが絡まり、地面に向かって垂れていた。

朝顔の蔓に似ていたが、近づいてみるとそれは手だった。骨と皮ばかりの手だ。
節のつき方や爪の形、全体の細さから女の手のように見えた。もう一度よく見ようと身を乗り出すと、二階の窓には何もない。家自体も空き家のようだ。

海辺の町に滞在している間中、曇りの日が続いた。漁港に着いた日は風が強く、括り付けられた漁船がぷらぷらと揺れていた。カメラを下げ、目に付いたものは全て撮影した。海鳥が灰色の空を低く飛んでいた。鳥の口にくわえていた魚が目の前に落ちてきて、私は飛び上がって驚いた。

──何だかおかしな町だ。

海沿いを一通り歩き、いつの間にか裏道へ迷い込んだ。シャッターの閉まった小さな飲み屋が並んでいる。喉が渇いたので、駄菓子屋へ立ち寄ることにした。はたしてお客が来るのかと疑うほど古びた店だ。

店の入り口に置かれたジュースを差し出すと、奥から老婆が現れて小銭を受け取った。

「この辺りは木造の古い家が多いですね」

私は気まずい思いがして、老婆に話しかけた。

「昔、この辺は遊郭が並んでたそうだからその名残かもしれないですね」

老婆は「私も他所から嫁いで来たので」と言葉を足す。私は不審な顔をしていたのだろうか。

「木の手摺は、どことなく遊郭の建物を思わせますね」

私がジュースの蓋を開けると老婆は曖昧に微笑んだ。それを合図にそそくさと店を出た。

誰も歩いていない住宅街を、ジュースで喉の渇きを癒しながら歩いていく。周囲は妙に静まり返っていた。時折別の路地を猫が横切る気配がするだけだ。後ろを振り向くと、何かがすばやく通り過ぎた気がした。目の端に、色鮮やかな布の一部が翻り、私は思わずシャッターを押した。データを確認しようとしたが、ひどくぶれていた。

──着物?

私は再び前を向き、声にならない声を心中で上げる。

「ここはさっきも歩いた場所──」

迷い込んだように、私はぐるぐると同じ場所を歩き回っている。先程通り過ぎたはずの駄菓子屋。木造の二階では、先程より長く伸びた手が揺れていた。

夕暮れが近づき、空き家と思われた木造の家に、明かりが灯った。
真紅の明かりに誘われるように、私はふらふらと歩き出した。

 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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発売:2013年10月下旬

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Kindle版「三浦怪談」はiPhoneやAndroidで無料配布されているKindleアプリやKindle端末で読むことができます。


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