第28回:「庚申塔(こうしんとう)」三浦海岸駅前ほか

三浦怪談・新編:第28回 「庚申塔」三浦海岸駅前ほか
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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。昨年の2013年10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第28回:「庚申塔(こうしんとう)」
三浦海岸駅前ほか


 

「庚申塔が多く残っている町だ」


この町に引っ越してきて、間もなく一か月が経とうとしている。のどかだが、近くには商店もあり、徒歩圏内に海があり、住み心地はまずまずである。通勤に一時間以上かかるのがネックとも言えるが、電車一本で行けるのでさほど体力をすり減らさなかった。


どうしてこの町に来たのかと問われれば、「海のそばに住みたかったからだ」と答えていた。事実だった。


庚申塔、という単語と存在をこの町に来て初めて知った。駅前のロータリーの前に、いつくつかのまとまった庚申塔があるのが気になったきっかけだった。


お地蔵さまに、三猿(見ざる、言わざる、聞かざる)や阿修羅像のような彫刻が施された石の塔、風化して読むことのできない文字が刻まれた謎の石。これらが一つの祠に収められていたり、野ざらしのまま点々と道に並べられたりしている。


最初はお地蔵さまの仲間かと思っていたが、よく観察してみると他の石塔もまざっている。マンションへの近道の辻にも一ヶ所、同じような石塔の集まりを見つけた。興味を持った僕は、マンションの管理人のおじいさんに聞いてみた。場所と、石塔の形状を伝えるとおじいさんはすぐに合点がいったようだった。


「ああ、それは……庚申塔ですよ」


正しい名称を教えてもらった僕は、検索して由来などを調べてみた。庚申塔は庚申塚とも呼ばれ、江戸時代に多くのものが建てられたことを知った。三猿の他にも青面金剛が本尊だということもわかった。明治の区画整理で壊されたものがほとんどだが、この町にはまだ比較的多くの庚申塔が残っている。


それから僕は、家の周辺の庚申塔を探してみることにした。
散歩のついでにブラブラしていると行き当たるのに、いざ探してみようとすると見つからない。庚申塔は「庚申講」に由来している。


人間の体内にいる三尸虫(さんしちゅう)が、庚申の日になると寝ている間に体を抜け出して天帝に悪事を報告しに行くと言う言い伝えがあった。それを防ぐために人は庚申の日に集まって、寝ずに修行を行ったり、宴会を行ったりしたと言うのだが──。


「三尸虫、か」


何故だか僕はその言い伝えの虫が出て行くのは指先からであるような気がして、両の手のひらを見つめた。


その半月ほど後、職場の近くで宴会があった。
酒宴はひどく盛り上がり、酔いもあって僕は遠方に越したことをすっかり忘れていた。


「そろそろ終電──」


皆が言い始めた頃には、盛大に終電を逃していた。僕の乗るべき終電車は既に一時間前に発車していた。
行ける限り最寄り駅に近い駅まで乗り、そこから歩くことにした。
途方も無い距離なのは、酩酊していてもわかった。


海沿いの道をどこまでも南に進んでいけば、いずれ住んでいる町に着くだろう。
僕は捨て鉢な気持ちになり、ふらふらと海沿いの道を進んだ。
途中で畑道に入り、坂を上ったり下ったり、外灯のない道も当たり前のように続いた。


どのくらい歩いたのだろうか──。
見たこともない国道沿いに、僕は立っていた。
背後を振り返ると、木製の屋根に覆われたバス停があり、屋根の中には庚申塔が並んでいた。


「こんなところにも……」


そう呟いたところでバスが来た。
どこをどう歩いたものか、始発バスが走る時間になっていた。吸い込まれるようにバスに乗ると、窓から白み始めた空が見えた。次に気が付いたのは、聞き覚えのあるバス停を告げるアナウンスだった。


「あ、降ります!」


慌ててバスを降り、そこからまた容易ではない距離を歩いてようやく家に辿り着いたのだった。


しかし、どうしてあのバス停に行き着いたのか。
後日、僕はバスを乗り継いでくだんのバス停を目指したが、停留所のアナウンスが鳴っても僕にはぴんと来なかった。
バス停には、屋根もなければ庚申塔もなかったのだ。
反射的に降車ボタンを押してしまっていた僕は、仕方なくそのバス停で降りた。
うろうろと周囲を歩き回り、何の手掛かりもなく反対車線に回って下りのバスを待つことにした。


「まだまだこの町には秘密がありそうだな」


僕が独り言を言うと、右手からすうと白い糸が伸びた。
糸に似たものは、空に向かって伸びたように見えたがすぐにかき消えた。


僕はぼんやりと空を眺め、ふと我に返ったところでバスがこちらに向かって走ってくるのが見えた。何かを振り払うように右手を上げ、僕は再びバスに乗った。


 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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