第29回:「吹き抜ける家」三浦市晴海町 馬頭観音石碑

三浦怪談・新編:第29回 「吹き抜ける家」三浦市晴海町 馬頭観音石碑
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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。昨年の2013年10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第29回:「吹き抜ける家」
三浦市晴海町 馬頭観音石碑


 

犬や猫がよく車に轢かれて死んでいる辻があった。
そこは生まれた家から歩いて1分もかからない、四つ辻になった道で、通学路だったので犬や猫の亡骸のそばをどうしても通らなくてはならなかった。


いろいろな亡くなり方があった。お腹を潰された子も、顔を潰された子も、一見無傷に見える子もいた。
白目を剥いている死んでいる猫と、目を合わせてはいけないと思いながらつい怖いもの見たさで一瞬だけ目を合わせてしまうことがあった。
何も映していない濁った目は私を恨んでいるように見え、半泣きで走った。


学校から帰ってくると、必ず亡骸は誰かの手で片付けられていた。私は安堵で胸を撫で下ろしたが、猫の顔はまぶたの裏にいつまでも焼きついていた。


私が成人する頃に、道幅を広げる工事が行われると、命を落とす犬や猫もいなくなった。


長じて、私は実家からバスで30分ほどの同じ市内に住む男性のもとに嫁いだ。
姑とは一年半ほど一緒に暮らした。細かいことを気にしない、さっぱりとした性格の人だった。
嫁いだ家は古く、土間があった。玄関を開けると土間、そこを境に二つの棟に家が分かれていた。右の棟に姑、左の棟に私たち夫婦が住んでいた。食事は一つしかない台所と、居間で一緒に食べた。


「あんた、動物をたくさん飼ってる?」


それが初対面の、姑が私に言った言葉だった。


「いいえ」


私は首を横に振った。動物は子供の頃に犬を一匹飼ったきりだった。


「あ、そう」


姑はさほど気に留めない様子で、話題を変えた。


天気のいい日には、姑と散歩に出かけた。家のすぐ近くに石碑があったので、姑に尋ねてみた。「馬」という字が読み取れた。


「詳しいことはわからないんだけどね、昔馬の首がぽーんとここまで飛んできたらしいよ」


「どうしてですか?」


「さあ、あたしも子供の頃に聞いただけだから」


私はその後、石碑について調べてみたが本当に詳しいことはわからなかった。
戦で斬られたものか。空を舞う馬の首を思い浮かべた。


夜、私は大きな物音で目を覚ました。姑が寝ている右の棟から聞こえた。
夫と顔を見合わせ、階下に下りると土間を渡って姑のいる棟へ行ってみた。
すると、台所の食器棚から何枚か皿が落下して割れており、しかし姑はまるで気にしない様子で隣の部屋に寝ていた。


「年に一度か二度こういうことがある。なあに、ただそれだけのことさ」


姑はそう言って再び寝てしまった。


翌朝、私は姑と割れた皿を片付けながら、昨夜の話をした。姑の話では「何か風のようなものが通り過ぎていく」感じがするというのだが、せいぜい皿が割れたり家具が倒れたりする程度なので姑は嫁いでから三十年以上、特に気にしていないという話だった。


「あんたもあまり気にしないだろう?」


そう言って姑は、にいと笑った。


面白い姑だったが、たった一年半ほどしか一緒にいられなかった。姑の全身は既に癌に蝕まれていたのだ。
あっけなく姑が亡くなってしまうと、家も急激に老朽化して、建て替えなければ危ないと近隣に注意されるようになってしまった。
兄弟が集まって遺品を片付け、一日のうちに家はショベルカーで壊されてしまった。
その瞬間、突風が吹いて私たちは身を縮めた。次に顔を上げると、もう更地になっていた。


業者が廃材を運び去ってしまうと、完全な更地になった。
ここが土間、ここがお義母さんの部屋。私は何もない地面を記憶を頼りに辿った。
すると何かが落ちているのを見つけて、私はかがんだ。割れた皿のかけらのようだった。


「どうしてこんなところに」


私は呆然と呟いたが、何故か少し嬉しかった。陶器のかけらを大切にポケットの中に入れると、私はよく姑と散歩に出かけた海へと足を向けた。


 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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