第30回:「窓」初声町下宮田 若宮神社

三浦怪談・新編:第30回 「窓」 初声町下宮田 若宮神社
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三浦半島の様々な地域や伝承を元にして、怪談を創作している三浦市在住の作家・杉背よいさんによる短編集「三浦怪談」。昨年の2013年10月にKindle電子書籍/iPhone電子書籍アプリとしてリリースされた同書の新編の連載がミサキファンクラブではじまりました。

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第30回:「窓」
初声町下宮田 若宮神社


 

ミツルは休み時間になると決まって眠くなる。
授業中はどんなに退屈で難しい内容でも気が張っているのか、眠くなることなどなかったのに、休み時間になると自然とまぶたが落ちてくるのだ。


席に着いたままうつらうつらしているミツルを、クラスの友達も最初は無理に起こして
校庭へ遊びに誘った。しかし、ドッジボールの最中も眠そうに顔面でボールを受けるミツルを見ていたら、気味が悪くなって誰も声をかけなくなった。


ミツルは睡魔と戦っている間、白昼夢を見ていた。


小学校の校庭を突っ切ってさらに進むと、神社があった。神社は校庭の延長のように認識されていたので、休み時間に子供たちが神社で遊ぶことは自由だった。神社では様々な学年の子が出入りし、混ざり合って遊んでいた。偶然に学年の垣根を超えた友達ができることもあった。


敷地内は草で覆われ、草の間から小さな紫色の花が顔を覗かせていた。校庭から少し離れているだけなのに、神社周辺は静かだった。


ミツルも低学年の頃から休み時間のたびに神社まで足を伸ばしていた一人だ。いつもは高学年の男子や、大人しそうな女子に出くわすのにそのときに限って誰の姿も見えなかった。


校庭で遊んでいる子供たちの笑い声が遠いもののように感じた。
その瞬間、ミツルは奇妙なものを見たのだった。


つぴーん。
ミツルの耳が高いところに上った時のように痛んだ。明らかに先ほどまでと空気の質感が違う。ミツルは片耳を抑えたまま、辺りを見回した。


すると、神社の階段に誰かが立っている気配がした。すぐ近くにいるはずなのに、人影は小さかった。


つぴーん、とミツルの耳は鳴り続けた。


そこで休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴り、ミツルは後ろ髪を引かれながら走って教室に戻った。


「おまえどこ行ってたの?」


席に戻ると隆が話しかけてきた。


「神社」


ミツルが答えると、隆は腑に落ちないような顔をした。


「俺も神社にいたけど、おまえを見なかったよ」


「いたよ」


隆はミツルを疑い、嘘をついていないミツルは抗議した。言い合いの声が少し大きかったせいで、先生に注意された。


──俺も隆には会わなかった。


ミツルは首をかしげる。隆どころか、ミツルと奇妙な人影以外には誰の姿もなかったのだ。


放課後、もう一度神社を訪れたが、休み時間に体験したようなおかしな緊張感はなかった。三年生の男女が鬼ごっこをして遊んでいる脇を、ミツルは何気なく通り過ぎた。


言葉にするならば「つぴーん」なのだ。
あの、耳鳴りのような頭痛のような感覚は。


ミツルは道の向こうから人影が近づいてくるのを見つけて走って逃げた。逃げたはずなのに、影はすっ、すっ、と滑るように近づいてきて、気がつくとミツルの目の前まで迫っていた。


「人」「影」だと思っていたものから、羽根と嘴が生えていた。真っ黒に塗りつぶされた影は、ミツルの父親よりももっと大きな背丈の鶏に似たものだった。


「うわあ!」


ミツルはそこで目を覚ました。背中が汗でびっしょり湿っている。


「夢か……」と言いかけて、ミツルはまた耳の奥に痛みを覚えた。


つぴーん。


辺りの空気が歪んだ。
ミツルの部屋のドアに、見たこともない大きな影が近づく。ミツルは、耳を塞いで布団をかぶったが、影がすっ、すっ、と移動する気配を感じる。


大声を上げながら、ミツルは布団を飛び出し、影からも逃れるために窓から勢いよく飛び出した。


空を飛べた、とミツルはほんの一瞬だけ思った。
しかし、団地の二階に住んでいたミツルの体はそのまま外の芝生へと投げ出された。


「ニワトリに追いかけられる夢見て窓から飛び降りるなんてなあ」


隆は引き攣った笑顔を浮かべていた。その後ろには先生とクラスメイトの姿も見えた。


「腕の骨折くらいで済んでよかったよ」


みんなはそう言って励ましてくれたが、ミツルが「神社に行った」と言い張っていた日に誰も姿を見なかったことが隆の口から大げさに伝えられ、クラスではちょっとした怪談のように広まっていた。


「ミツルは、どこか別の場所に連れていかれたのではないか」


それがクラスの、怪談好きな子供たちの推測だった。
ミツルとしては、もっと怖い話ができると思ったが、今はやめておこうと思った。


話を筋立ててできるほどには、ミツルの頭は整理されていなかった。


つぴーん。
あの日のように、奇妙に空気が歪み、耳が痛くなることはもうなかった。
しかし二度と窓から飛び出さないように両親がミツルの窓を塞いでしまった。


 

【杉背よいプロフィール】
幼少より三浦市在住。2009年より「よいこぐま」名義で怪談を書き始める。三浦半島の伝承に興味を持ち、土地 の特色に影響を受けた怪談・小説を創作している。共著に「てのひら怪談壬辰」(ポプラ社)、「みちのく怪談コンテスト傑作選 2010」(荒蝦夷)。他に児童書「まじかる☆ホロスコープ こちら、天文部キューピッド係!」(角川つばさ文庫)。


◆三浦怪談について◆

「三浦怪談」は、iPhoneアプリやKindle電子書籍でもリリースされています。iPhoneアプリ版では、GPSを使って、怪談のモチーフとなった伝承話の土地へ近づくと通知します。アプリ版「三浦怪談」を元に、お話に出てくる場所を訪れてみるのも楽しいですよ。
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